情報サービス論レポート(2021-2022)

 

設題
図書館利用教育の実施のために必要な環境整備にはどのようなものがあるか、それぞれについて簡潔に述べるとともに、図書館利用教育をさらに浸透させるためには、どのような工夫が必要か、最近の動向も踏まえ、貴方自身の考え方を含め論じてください。

 

解答

図書館利用教育実施には、何よりも組織化して実行することが求められているといえよう。そしてそれに付随し、いくつかの要件が想定される。

それは、仮に図書館利用教育が特定の個人による実施になった場合、その施策は継続性を失うからである。組織として個々の役割を事務分掌規程等で定め、明確にして行うことは一見、個々人の能力、個性を埋没させるようにもとれる。しかし、特定の役割を一定期間継続的に行うことは、その個人の経験が蓄積される効果もあり、その面では能力にあった役割分担は結果、個人の特性を引き出すことにつながるともいえる。また一定期間で役割を改めることで、組織の硬直化、柔軟性の欠落を防げる。その上で引き継いでいく役割を実施マニュアル等の 文字資料にしていけば、個人の経験知が組織の経験知として活かされる。加えて図書館内で研修を行い、他の役割も一程度こなせるようになれば、組織(図書館)全体の能力の底上げが可能になる。

これらを進めていくには、教員との連携を図り、教員、学習者、図書館、それぞれの求めているものや、その意図を共有していくことも有益であろう。

さらにこれらの教育実施に必要な予算を確保することが必要である。これは前記の組織化、それぞれのアクターとの連携をできる範囲から行い、成果をあげることで可能になる。この初期の段階では例えば『図書館利用教育ハンドブック大学図書館版』にあるワークシート集など既成のものの活用も有益であろう。

その上で、文献、データベース等のレファレンスツールの整備を行う。さらに教育の成果を確かにするには、予算があれば、独自に作成した映像メディアの活用も検討すべきであろう。予算が確保できるまでは、これも既成の映像メディア(日本図書館協会の「図書館の達人」シリーズ等)を用いることも選択肢になる。

これらを端的に言えば、図書館は当初より組織の良い面を活かす。その上で先人の積立てた成果を利用する等し、成果を少しずつ積み重ね、理解と評価を得られる環境整備のサイクルを確立していく。これが図書館利用教育であると共にその実施のために必要なことではないだろうか。

以下、図書館利用教育をさらに進めるために必要な工夫に関する私見を述べていく。

この数年、図書館は存続の意義が問われる状況下にあると私は考えている。それはコロナ禍における図書館の果たす役割の重要性が増しているからである。

コロナ禍の折、様々なメディアで玉石混交の情報が入り乱れた。この情報化社会で情報を扱っていく組織、それは図書館である。この事態に対処するには、コロナ禍で生じる市民の疑問・迷いを、これまで積み重ねてきた情報資源に基づき、中立・公平に判断し情報提供する存在が必須である。さらにこの間、存続の意義が問われるとしたのは、そうした存在、組織として作用するはずの図書館ですら、感染拡大予防のために閉館に追い込まれたことがあったからである。そうした中、図書館はどう対応したか、専門図書館協議会による雑誌『専門図書館no301・302合併号』の特集では各種図書館の取り組みを紹介している。

まず図書館関連組織の一つが、この有事の際の取り組みを記録を残していること自体が、図書館の果たす情報の整理、発信をいった役割を果たし得たと私は評価している。

加えて、例えば江戸東京博物館図書室の報告(pp20-23)では、個人情報管理と「図書館の自由に関する宣言」を踏まえ来館者名簿を作成しなかったという。その是非は置き、何に(=何の情報に)基づき、どういう対応(≒情報発信)をしたか、これが後の記録の一つになる。

また、他の事例から図書館の扱う情報メディア(主に書籍)への対応もみえてくる。例えば書籍自体はアルコール等の消毒には適さない(p7国会図書館の報告等)ということであったり、資料自体に一定の隔離期間を設けたり(p42三康図書館の報告等)、あるいは利用者側の消毒を徹底した(p80-83品川区立大井図書館の報告等)ということなどである。

また複数の事例で見られたのは、他の同類・同地域の図書館間のネットワークの情報を共有して対応した(p36-39航空図書館の報告等)ということである。

こういった有事の際に、従来のスタンスを崩さず情報を扱い行動していくこと、これは図書館の行うことすべて、すなわち図書館利用教育でも求められることと私は考える。それは館が独自の対応をすると同時に、図書館間のネットワークを活かし参考にする、このさじ加減である。これは一つ目の設問の回答部で敢えて強調した組織化と同時に個性を活かすあり方に通じると私は考える。そして、これが本講義のテキストでも述べられていた組織内での主題司書の育成を目指すことを行う、その姿勢に通じるとも私は考える。

私は一資料館に務める学芸員である。司書の方の組織化と同時に専門性を養成しようとする姿勢、これが月並みだが一つの工夫ではと畑違いの私は感じた。コロナ禍での図書館の役割は大きい。だからこそこの課程での学びを通じ司書的知見を身につけたい、そう思っている。

文字数 2096文字

参考文献
専門図書館協議会編 2020.「特集新型コロナウイルス感染症対策:図書館の記録」(『専門図書館301,302合併号』pp1-95)
日本図書館協会図書館利用教育委員会編 2003.『図書館利用教育ハンドブック 大学図書館版』日本図書館協会

講評
良いレポートの一つです。論述内容、参考文献の活用も高く評価できます。

 

振り返って

このレポートの提出日は2022年4月10日でした。今から1年前、コロナ禍が日常になりつつあった頃でした。
コロナ禍にはいった時、師匠のお一方から、こういう非日常だからこそ、そのときにどう対応したかを、いつも以上にきちんと残せ、ということを言われていました。
私の方はこの際、こんな企画展をやっていたこともあって、手一杯で取りかかれず、今振り返れば、その言葉は至言であったと感じ入る次第です。

先日、その方にお目にかかったときも、民俗資料の資料論の議論をさせてもらいました。
例えば、聞き取りをした音声資料に付属する情報を残してその資料を基礎資料、出典として用いることができるようにする、そんな必要があるんじゃないか、と。
それには普段のやりとりを含め、一定量聞き取りを行う(その人の実践では一人に対し100時間とおっしゃっていました)まずは、質より量を重視し基礎資料を残す、その必要があるんじゃないか、とも。

これって、紙モノを使う文書(もんじょ・ぶんしょ)屋さんの領域にも通じる資料論です。
うちらの領域では、できるだけ正確さの精度が高い史料を単独、可能であれば複数利用して史実を述べ、その上で論を立てることが求められています。
図書で言えば書誌が重要視されるのと同じ訳で。
また、その方は、記録を残す際、対談形式を重視しています。当事者の方から聞き取りを行う、その過程を公開し(当然相手の了解も得ながら)進めていくことで資料性を高めていくというスタンスの方です。

今、私は、仕事、趣味の一つで、石造文化財の3Dデータの収集に取り組んでいます。
それに本格的に取り組むようになったのは、2月にあった講習会がきっかけなのですが、そこでもデータの有用性の議論も必要だが、まずはデータを取ること、そこから議論が始まる、という趣旨のことを聞きました。

…と話が大分、ずれてしまいましたが、コロナ禍の図書館の対応に関する記録を探したときに、参考文献の『専門図書館301,302合併号』に出会うことができた、これがこのレポートを書けた原動力になっています。

司書課程の課題は、如何様にも対応することができるのですが、自分の主張を反映させたレポートを書くには、その典拠・基礎知識が必要とされ、案外骨が折れる、そんなことを体感したレポートでした。

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