図書館制度・経営論レポート(2021-2022)

設題
組織作りの諸原則の5項目を取りあげ、それぞれについて述べるとともに、図書館法第3条(図書館奉仕)に掲げられている九つの事項の学びから、これらを実現するためにはどのような図書館組織の構築が望ましいか、貴方自身の考え方を含め論じてください。

解答

1)はじめに

本レポートではまず組織作りの諸原則の5項目について述べ、それらを踏まえた上で図書館法第3条(図書館奉仕)に挙げられている9つの事項の学びを実現するための方策を論じていく。

2)組織作りの諸原則の5項目

まず、①スカラーの原則は、組織を上部から下部まで複数の階層に分けた上でそれぞれの責任と権限を明確にすることで、一つの命令が上部から下部にまで迅速かつ一貫性を持って流れるようになるとする原則である。次に②専門化の原則は、組織を構成するメンバーの一人一人が、専門知識を習得し熟達することにより効率的な経営ができるような業務活動の設定、組織化をしていくべきとする原則である。そして③命令一元化の原則は、組織内では特定の一人のみから命令を受けるようにする原則である。④管理範囲の原則(スパン・オブ・コントロール)は、一人の管理者が監督する統制範囲には適正値・限界ががあるとする原則である。最後⑤の権限委譲の原則は、日常業務や年次業務などの定型化業務は基本的に部下に権限を委譲すべき、即ち上司は非定型化業務や例外業務に専念すべきともいえる原則である。

3)図書館法第3条(図書館奉仕)に挙げられている9つの事項の学びを実現するための方策

ここでは順不同で方策を挙げていく。

まず「二 図書館資料の分類配列を適切にし、及びその目録を整備すること」である。これは大規模館、専門図書館など図書館の規模、特徴に応じて管理範囲の原則を踏まえた上で、事務分掌をはじめとした規定を設ける。その上でスカラーの原則に基づき、分類配列、目録作成の責任と権限を明確にして作業を遂行することで可能になると考える。

次に「三 図書館の職員が図書館資料について十分な知識を持ち、その利用のための相談に応ずるようにすること」である。これは、専門化の原則を採り、主題別組織の採用により主題司書の養成を図る。若しくはスタッフ・マニュアルの充実を通して経験知を積み上げていくことで組織として高い専門性を確保していく。これによりレファレンスの質が高められるのではないだろうか。また次の項目四に通じるが、この際、他館の資料収集の傾向を把握し、主題司書は各々の館の主題司書と横の繋がりを得るべく、日本図書館協会等の職能集団への積極的参加も必要ではないだろうか。

そして「四 他の図書館、国会図書館、地方公共団体の議会に附置する図書室及び学校に付属する図書館又は図書室と緊密に連絡し、協力し、図書館資料の相互貸借を行うこと」である。これはスカラーの原則に基づき、事務分掌規程を設けた上で、他の図書館等との連携をはかる役割の者を明確にする。加えてその際、権限委譲の原則に則り、上役が対外的な役割を果たす者への必要且つ可能な権限を委譲し、スムーズに担当が連携作業に専念できる体制を構築することが可能な要件であると考える。

「五 分館、閲覧所、配本所等を設置し、及び自動車文庫、貸出文庫の巡回を行うこと」は館長が、権限委譲の原則に基づき、分館長等に定型化業務を委譲する。またこの際、管理範囲の原則を踏まえた人員配置を行うことが必要であろう。

最後は「六 読書会、研究会、鑑賞会、映写会、資料展示会等を主催し、及びこれらの開催を奨励すること」である。この項目は、社会教育法第3条にある環境醸成の概念に基づき、奨励することが求められていると考えられる。ここでは司書の専門性に加え、社会教育主事であったり、ファシリテーターの専門性が求められると考えられる。司書の専門性からはやや外れるが、図書館における経営管理機能の調整に長けた人材を養成できれば対応できる可能性があると私は考える。

3)おわりに

2)の方策は1)で触れた原則を踏まえ考察した。9つの項目のうち挙げなかったものもあるが、それらもここで挙げた方策で実施可能になると考える。例えば一、の資料収集と利用にあたっては職員の専門性を高めることが必須であるし、九、の諸機関との連携は六、の方策で挙げた広い専門性の確保が、ある面で性格を異とする諸機関への対応を可能にすると考える。

図書館が組織であることを所与とすれば、組織作りの諸原則の5項目の活用は図書館の運営上、必須の要件であるといえる。

また最後に留意する必要があるのは、これらは「図書館奉仕」の具体例であるということではないだろうか。「社会教育行政における国や地方公共団体の役割は、環境を整備することによって人々の自主的で自由な自己教育を側面から援助し奨励していくことにある」(塩見・山口113頁)のであり、「図書館の本質的機能は(中略)住民の自主的精神に満ちた人格の感性を目指す自己教育に資するとともに、生涯学習に貢献することとなる」(毛利5頁)のである。強権的に学びを押しつけるのではなく、サポート(奉仕)に徹する。この基本姿勢を常に意識し、これら9つの具体例を活かしていく必要があるのだと私は思う。

文字数 2030文字

参考文献

塩見昇・山口源治郎編(2009)『新図書館法と現代の図書館』日本図書館協会
毛利和弘(2019)『図書館制度・経営論[改訂版]』近畿大学通信教育部

講評
学習・理解はよくできています。論述内容、参考文献の活用も評価できます。なお、テキストは巻末の参考文献の中に含めないでください。
総評: 合格

振り返って

毛利のおっちゃんこと、お化けのモーリー、いや毛利先生の科目です。この先生、出す事例が古かったりするんですが、それも今日にも通じることが多く、私の中では好意の持てる講師でした。古き良き時代の大学の先生、といった感じでしょうか。このレポートの課題も一見、そんなに難しくはないのですが、実際とりかかると案外難しく、それなりに参考文献にあたらなければならないものでした(最も、参考文献に挙げられていたものの中には全く的外れなものもあったのはご愛敬)。

図書館学の凄みというのは経営論で、ここまでドライに切ることを許す、その深みにあると私は思いました。組織作りの5原則って、ま、図書館も組織だけど、そういう風にまな板の上にのせるかといった感じ。最も、社会教育施設にあって図書館は指定管理者制度の導入が進んでいる施設のうちの一つであり、危機感を持っているのかも知れませんが。

私が学芸員資格を取ったときの講座では、経営論でそこまで根本的に論じた講義を受けたかなぁというのが正直な記憶です。時代が変わった、というのもあるのかもしれませんが、こういった視点で、自分が将来関わっていこうとしている道に関して、距離を置き現実を見つめるというのは必要なことだよなと私は思いました。

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