生涯学習概論レポート(2021-2022)

設題
生涯学習支援における図書館の役割について、図書館の3要素である「人(司書)」「資料、情報」「施設」の3つの観点から述べなさい。


解答


1)人(司書)

司書は図書館法によって定められた社会教育施設である図書館の専門職員である。日頃の資料、情報の受け入れ業務を通して、それらに関する専門知識を有する者も多い。また専門図書館や都道府県図書館、国会図書館などの図書館では、主題司書としてその領域のスペシャリストとして勤務していることもある。そしてその知見を活かし、レファレンス業務やレフェラルサービスが行われる。このサービスにより利用者は、資料、情報へのアクセスを容易に行える場合が多く、その点で司書は利用者が資料、情報の恩恵を受けるための道先案内人のような役割を果たしているといえる。

また司書はその専門性を活かし、他の社会教育職員や行政職員に図書館の役割を述べるなど行政内での図書館の存在を際立たせる立場にもある。
 
2)資料、情報

まず、種々の資料、情報を利活用できることで、読解する力(リテラシー)の涵養を成している。これは従来の文字の読解に加え、今日必須になりつつあるインターネットリテラシーも同様である。

加えて、民主主義の根幹をなす言論の自由の担保としての役割も持っている。図書をはじめとする資料、情報の収集、保管、閲覧ないしは貸し出しを行うことで、その資料、情報に収まっている第三者の言論を、誰もが地域や時間を越え自由に記録、点検、批判、比較すること、則ちそれらの前提となるアクセス権の維持を可能にしている。アクセス権は健常者のみならず障碍にあわせた資料、情報の作成、提供を行っていることでもそれを維持しているといえる。また特に高価なあるいは希少性の高い資料、情報を図書館が購入していることは、それらの維持装置としても機能している。

そして図書館が行う書誌情報の網羅的な収集により、一般の利用者のみならず研究者においても学術研究の領域で①文献リストの作成、②所在確認、③入手、④読書が可能になっており、先行研究の積み重ねで可能になる科学上の新知見を得ることを容易にしている。

あわせて今日その数が飛躍的に伸びたオンラインデータベースの利用権を図書館単位で得ることで、そのサービスの維持、利用者への無料提供を可能にしている。

また学校などと異なり資料、情報の取捨は随時個人学習で可能なため、自らの個性を形作るという生まれながらの人間の学習を助け、支えている。その一方で近年では、講座、セミナーなども開催する、というような提案が2008年の図書館法改正後、文科省を通じて出されており、集団学習への対応も可能にしつつある。

ほかに「ユネスコ公共図書館会議」で定められた原則の通り、図書館は「地域の情報センター」でもあり、地域課題に対応する情報や資料を提供するサービス、学校支援、ビジネス支援なども行われている。

さらに近年では、インターネット情報の取り扱いも行い、リンク集やパスファインダーの整備、所蔵するコレクションの電子化、公開などにも取り組み利用者に情報提供を行っている。
 
3)設備

図書館は学校などの集団学習の場に対して個人学習の場となっていた。また社会教育施設の中でも、集団での学習に向いた公民館や、研究、展示を主な目的とした博物館と異なり、すぐ手にできる資料とそれに付随するサービス要員(司書)がいる施設である。そのためどのような内容の学習にもある程度は対応できるといえる。

さらに一つ一つの図書館は限られたスペースの施設であるが、それを補うために図書館間相互貸借サービスが行われている。これにより、ある程度はどこの図書館からも希望の資料を閲覧できるようになっている。

そして先述した通り図書館は「情報センター」であり、その情報を読み取るための機器が置かれることが多い。例えばマイクロフィルムのリーダーであったり、今日ではインターネット或いはデジタルデータベース用端末がある。これらの機器の扱いに習熟できる施設としての役割もあるといえる。例えば映写機なども備え、その操作講習会などが開催されることもある。また図書館法17条にあるとおり、無料で誰もが等しく利用でき情報を得ることができる施設である。そして読書会や研究会、資料展示会の主催と奨励に努める(図書館法3条の6)施設でもあり、生涯学習の効果を高める役割も果たしている。

他に近年ではMLAK連携が進んでおり、博物館の実物資料、図書館の書籍、公文書館の行政文書及び図書、公民館の持つ地域の記録集や集いの成果などの相互乗り入れが行われつつあり、それぞれの長所を活かし、短所を補う運営がなされつつありここでも新たな役割が生じつつある。

しかし一方では指定管理者制度の導入により、市場原理の下に図書館が曝されることで、場合によってはその質を落としかねないような事例も生じることもある。
 
以上のように図書館は「人(司書)」「資料、情報」「施設」それぞれが果たす役割により重層的な学びの有り様、役割を持っているといえる。

文字数 2019文字

参考文献
朝比奈大作(2013)『図書館員のための生涯学習概論 JLA図書館情報学テキストシリーズⅢ別巻』社団法人日本図書館協会
香川正弘・鈴木眞里・永井健夫編(2019)『よくわかる生涯学習 改訂版』ミネルヴァ書房
鈴木眞里・馬場裕次郎・薬袋秀樹編(2014)『生涯学習概論』樹村房
毛利和弘(2019)『図書館制度・経営論 改訂版』近畿大学通信教育部
渡部幹雄(2016)『ライブラリー図書館情報学1 生涯学習概論』学文社

講評
このレポートでは生涯学習支援における図書館の役割について3つの観点から述べて下さい。

最初の設題は、図書館の「司書」として、どのような生涯学習支援ができるかを述べて下さい。ここでは「新しい公立図書館像」や「公立図書館の基本的な役割」、「専門職員としての司書」の視点を押さえることが大切ですが、ここはこれでよいです。幅広い視点から述べられています。

二つ目の設題は、「資料、情報」の視点から生涯学習支援における図書館の役割について述べてください。ここでも「公立図書館の基本的な役割」「公立図書館と情報技術」の視点を盛り込むことですが、図書館の情報化に対応した取り組みについても述べられています。図書館は情報化の進展によって役割も変わってきています。

最後の設題は、各種の図書館「施設」として、どのような生涯学習支援ができるかを述べてください。ここでは「生涯学習と図書館」「図書館の種類」「社会教育施設としての公立図書館」の視点を踏まえて述べることですが、図書館の館種による生涯学習支援についてもっと詳しく述べてください。館種ごとに述べるとよいですね。

最後に、これら3つの観点を踏まえ、図書館の役割としての総括的な生涯学習支援を述べるとよいですね。

総評: 再提出

以下、再提出版

設題 生涯学習支援における図書館の役割について、図書館の3要素である「人(司書)」「資料、情報」「施設」の3つの観点から述べなさい。

解答

課題について以下項目毎に記述していく。

①人(司書)

司書は図書館法によって定められた社会教育施設である図書館の専門職員である。日頃の資料、情報の受け入れ業務を通して、それらに関する専門知識を有する者も多い。また専門図書館や都道府県立図書館や国会図書館の規模の図書館では主題司書としてその領域のスペシャリストとして勤務していることもある。またその知見を活かし、レファレンス業務やレフェラルサービスが行われている。このサービスにより、利用者は資料、情報へのアクセスを容易に行える場合が多く、その点で、資料、情報の果たしている役割を享受するための道先案内人のような存在であるといえる。

また司書はその専門性を活かし、他の社会教育職員や行政職員に図書館の役割を述べるなど行政内での図書館の存在を際立たせる立場にもある。

②資料、情報

図書館の資料、情報は、個人のニーズ(学習欲求)と社会的・公共的課題に関するものが主に求められている。またインターネット上の情報資源が多大になった今、図書館は低所得者、障碍者、高齢者等がそれらを使える環境の整備や情報を整理したリンク集、パスファインダーの整備をする立場であり、同時に自らが所蔵するコレクションの電子化をして公開する立場でもある。そして学校とは異なり、資料、情報の取捨は随時、個人学習で可能なため自らの個性を形作るという生まれながらの人間の学習を助け、支えている。さらに学習の過程で資料、情報を読解する力(リテラシー)の涵養を成している。これは従来の文字の読解に加え、インターネットリテラシーも同様である。

加えて、民主主義の根幹をなす言論の自由の担保としての役割を持っている。図書をはじめとする資料、情報の収集、保管、閲覧ないしは貸出を行うことで、その資料、情報に納まっている第三者の言論を、誰もが地域、時間を越え、自由に記録、点検、批判、比較することや、それらの前提となる資料、情報へのアクセス権を維持している。また特に高価あるいは希少性の高い資料、情報を図書館が収集等していることは、それらの維持装置としても機能しているといえる。

ほかに「ユネスコ公共図書館会議」で定められた原則の通り、図書館は「地域の情報センター」でもあり、地域課題に対応する資源、情報を提供する、学校の支援、ビジネス支援などの役割も果たしている。

③施設

図書館は「図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に視することを目的とする」(図書館法第2条)施設である。

そしてその設置母体により様々な役割が求められている。

市町村立図書館は、住民の生活圏に応じた設置が求められている。また資料、情報の提供などのサービスを直接行う。また地域の情報拠点として住民の要望に応え、地域の実情に即した運営が求められている。

都道府県立図書館は市町村立図書館の役割に加え次の役割が求められている。それは住民の需要を広域的かつ総合的に把握して、資料及び情報を体系的に収集、整理、保存、提供すること等を通し、市町村立図書館に対する円滑な図書館運営確保のための援助と都道県内の図書館間の連絡調整を行う、ということである。

国立国会図書館は国立図書館と国会議員や国会運営のための図書館である。求められる役割は、国民全体に奉仕すること、国内出版物を納本義務制度などを用いて網羅的に収集、保存しそれらの提供、書誌情報の作成をすることである。

他に学校図書館や大学図書館、専門図書館などがあるが、これらはその機関の運営(学習支援、調査、研究等)に資することが主たる役割である。

なお一つ一つの図書館は限られたスペースの施設であるが、それを補うために図書館間相互貸借サービスが行われている。これによりある程度はどこの図書館からも希望の資料を閲覧することが可能になっている。

以上のように図書館は、司書という資料、情報を扱い、さらに時には扱う資料、情報の領域のスペシャリストにもなり得る専門職員を擁する社会教育施設である。また図書館は資料、情報を扱っている。今日は高度情報化社会であると同時に生涯学習時代でもある。その中で資料、情報へのアクセス権を維持し、国民の知る権利を保証している意義は大きいものである。また社会教育施設としては、学校と異なる個人の自由な学習を担保し、生涯学習の観点からいえば、学校教育にも図書館が取り入れられていることからも、まさに生涯学習のという学びの施設の一つの代表であるとも言えよう。さらに種々の図書館は有機的ネットワークを形成しており、それぞれの足りない点を補っている。図書館自体は今回のレポートでは触れなかった非常勤・非正規採用の増加による専門性の確保に関する点等の問題も今日孕んでいる。しかし他の社会教育施設と比して、強い有機的ネットワークを有する図書館は、一致団結しそれらの問題も乗り越え、よりよい生涯学習のあり方に寄与していくのではないだろうか。

文字数 2067文字

参考文献
鈴木眞理・馬場裕次郎・薬袋秀樹編(2014)『生涯学習概論』樹村房
香川正弘・鈴木眞理・永井健夫編(2019)『よくわかる生涯学習 改訂版』ミネルヴァ書房
朝比奈大作『図書館員のための生涯学習論 JLA図書館情報学テキストシリーズⅢ別館』日本図書館協会
図書館の設置及び運営上の望ましい基準
https://www.mext.go.jp/a_menu/01_l/08052911/1282451.htm(2022/05/31最終閲覧)
講評

最後の設題は図書館の館種による生涯学習支援について述べられています。これでよいです。それぞれの図書館が直接的間接的に生涯学習支援を行っています。

これで合格です。今後も精進して頑張ってください。

総評: 合格

振り返って
 これは難しかったです。初のレポート再提出でした。まず、図書館の3要素の解説が教科書にはほとんど載っていない。参考文献等で知識不足を補っていかないことには、3つの要素それぞれについて書くことができないものでした。再提出になった理由もそう言われりゃそうだけど(図書館の館種の違いによる機能の差、文章の構成としてまとめをきちんと書く)一応、専門として生涯学習をかじっていただけに、悔しくて文献読んで、まあ良い勉強になりました。
 ちなみに再提出版は、良いと言われた個所は文章量を削り、未記載の館種の違いによる生涯学習支援の差と最後のまとめをくっつけた形にしてあります。
 また、これは何度か書いたことですが図書館情報学の一つとしてきちんと「生涯学習概論」を扱っている、そのことに敬意を払いたいと思っています。今日日、大学ではいくつかの課程用に一つの講義を設定することが多いのに対して、通信とはいえ、また教科書だけかもしれないとはいえ、図書館員、図書館情報学向けの講義の存在、大したもんです。

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